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2008年04月03日

「鼻で考える家づくり」

 私がこの原稿を書いている場所は、自宅の個室。時刻は深夜一時頃。部屋の中は無臭ではないが、しいて言えば、洋服やエアコンのにおいがほのかに漂う。
 部屋を出て家のなかを歩き回ってみる。玄関では、革靴のようなにおい、浴室は石鹸の残り香、トイレは芳香剤、台所は少し生もののにおい、和室はなんとなく畳のにおい、寝室はふとんのにおい、そしてベランダに出ると湿気を含んだ土のようなにおいがする。なんとなく子供の頃から記憶され類型化されてきた生活の中での「におい」が、部屋ごとに感じ取れるのが確認できる。これからさらに、押入れや本棚、冷蔵庫の中、テレビの後ろなどに鼻を近づけてみると、また特有の記憶に結びついた「におい」を感ずることができるのだろう。これら雑多なにおいは、全てひっくるめて「生活のにおい」である。
 ところで、我々は普段の生活の中で、起きているときも寝ているときも、常に何らかのにおいに囲まれている。そして何らかのにおいを感じているということは、その時必ず呼吸をしているということでもある。このことからだけでも、嗅覚が、他の五感に比べ、身体のリズムとより密接な関係であることがわかる。その関係は、香りによって、本来の身体のリズムを取り戻すアロマテラピーの効果などからもお分かりだろう。
 普通、生活の中や家づくりで「におい」をどう扱うかについては、開口部の形や位置、換気設備などで対応していると思う。例えば、窓を開けたときに室内に入り込む潮の香りや、夕食時、外にもれる料理のにおいなど、通風がにおいを感じさせる要素になるからだ。
 さらに踏み込んで、長い時間でみた「生活のにおい」と記憶の関係や、身体のリズムと密接な関係にある「においの効果」なども普段から気にかけておくと、より心地よい空間づくりのヒントにつながっていくのではなかろうか。
 文字に目を向けていても、鼻は自然と周囲に向いているもの。さて、どんなにおいを感じていますか?
(T)

「鼻で考える家づくり」
生活の中で漂うさまざまなにおいは、感じる人の記憶をコンセントのようにつなぐ。(イラスト=古堅直也)



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